000:宵山姉妹
バレエ教室の帰りには、決して寄り道をしてはならない。しかし 祇園祭の夜、姉妹は好奇心にかられ、日が暮れてゆくにつれ、なまめかしく姿をあらわにしてゆく京都の街に迷い込んでいく。
無鉄砲な姉と恐がりの妹を通して、ういういしく描かれる祭りの情景は喧噪を増してゆき、姉妹を呑み込み、バラバラにひきはがしてしまう。縁日のいかがわしさや細い路地の闇が時空をゆがませて、ついには人ならぬものを呼び出す。赤い浴衣の少女は金魚の化身だろうか。街自体が巨大な結界とも言われる街路は、虚実あいまいな幻の世界を演出するのにピッタリだろう、全体的に古めかしく様式美に偏った趣味性の高い描写で彩られているが、同時にどこか間が抜けてかわいらしい独特の文体だ。
自分は京都に五年住んでいたので、この小説に出てきた四条界隈の碁盤上に巡らされ た街ではよく迷った、交差点がひたすら反復するので、すぐに方位を見失ってしまう、山鉾と通りの名前から姉妹がたどったであろう道のりを推測しながら読むのが楽しかった。
南観音山や六角通といった実在の地名に、おかしな景色がさしはさまれていく、「金魚鉾」という鉾はないし、途中で姉妹が見かける「べんけい」は「橋弁慶山」のはずだが、だとすると弁慶の横には「牛若丸」がいるのだが、なぜか小説には書かれていないのも変だ。たくらみのある小説だと思った。
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