000:田所さん
仕事にほとんど無関係な老人がいる奇妙なオフィスの風景。「田所さん」というその老人は、社員にかわいがられたり、邪魔者扱いされもするが、ときに欲望とストレスに疲れ果てた心をうち、涙させることもある。
田所さんは白痴的人物だ。かつてから白痴は無能者であると同時に神のよりしろともされてきた、この小説は一読してしずかでおだやかな物語だが、白痴的人物を現代のオフィスに置くという鋭い実験をしている、それによって会社営業そのものが何かの儀式のように見え、ストレスに潰されて叫びだす社員はのろわれたものに見えてくる、われわれが現代においてなお巨大な儀式の中を生きている事が暴かれる、小説は日常のとんでもない場所に窓を開くことができる。この技を盗みたい。
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