000:初天神
母と父を亡くし、なじみの女友達の誘いで京都へツアーに出かけた六〇歳独身の幸代が、これから始まる余生に向けて思いをめぐらせる。
家族という不可思議なしがらみから解き放たれた晴れやかな気持ちではなく、そこには不安と戸惑いがまじっている。彼女は、密かにうらやみ憧れていた自由で進歩的な女友達の智子ではなく、バスに乗り合わせた見知らぬ老婆の姿に重ねて、両親のことを考え続ける。旅行 など知らなかった母、自分の人生にからみついて離れなかった父、そして自分の幸せのために父を捨てられなかった幸代は、独りきりで旅行に参加した老婆を放っておけなかった。幸代は六〇をすぎて、両親の存在を乗り越えて自立に向かう事ができたのだろうか。この旅は華やかな京都の名勝地を背景にした、奇妙なお遍路かも知れない。
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