000:動物の葬禮


 五十代半ばの指圧師のヨネのもとに、家を出ていた娘のサヨ子がなんと恋人の死体を持っていきなり帰ってくる。キリンの死体をめぐる奇妙なとむらいの一部始終。 

お金も古着も噂話もなんでもかき集めてはため込んでいるけち臭いヨネと、何の水商売をしているのかわからないが、恋人の死すらもネタにしてモノやカネをぶんどり、またきっぱりと捨て去るサヨコの、二人の対照的な女はともに図々しくたくましい。

恋人とか、親子とか、生きているものと死者とかいう取り決めは、この女たちの前では意味をなさない。文中にあるように、そういうことは考えているヒマがない、のであり、彼女たちにはそのようにして世の中にのさばるしか、ほかにやりようがない。 そこには貧困と、自分以外に頼るもののない女の悲しみがある。特に男や父の不在はこの作品のテーマでもあるだろう。この主題はこの小説が発表された1975年当時、いまよりももっと切実であったはずだ。

しかし、ただ嘆くのではなく、吹っ飛ばす生命力が描かれており、それが笑えるという凄い小説だと思った。