000:蛇沼
外国人労働者や若年の浮浪者といった社会問題に触れつつも、物語は、主に閉鎖した村社会における血縁と貧困と暴力と差別に根差した、それこそ泥沼のような無力感と飢餓感にあふれる復讐譚だが、そうした主題はけっこう見慣れており繰り返し描かれる暴力描写にも独創性がない。
だから、作者のいいたいことはそういうことではないだろう。作者は逆に、物語の熱量が無力化された地点から何かを書こうとしていると思え、そこに惹かれた。 蛇沼は、釣り人がはなした外来魚によって食い荒らされた場所である。だからそこにはどんな神秘性もないし、この沼はなんのモチーフにもなりえない。蛇沼はいわば暴かれた聖域だ。 蛇沼に働きかけるためにはルアーという空虚な道具が必要であり、この小道具はかなり慎重に描写されている。自分にとっては、この作品の見どころはストーリーよりも断然描写だった。どこかひんやりとしていて空虚であり、革靴や金属バットやルアーやタケヒコの細部が静けさとともに際立ってくる気持ち悪い書き方をしている。どこか村上龍を思い出させもする。熱量と冷淡さが同居したような不思議な作品。
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